兵六ものがたり

鹿児島の銘菓に「兵六餅」というのがある。
でも、兵六さんてどんな人か知らなかった
兵六餅はキャラメルのような、お菓子だ。
「ボンタン飴」とともに、鹿児島の昔からの銘菓だ。

h17母智丘(都城)の桜祭りに行って、兵六保存会の踊り・・・というか日本版オペラのような、ユーモラスな「兵六踊り」を見て、兵六物語があることを知って、調べてみた
地方によって、ストーリーは違うようだ。

「大石兵六夢物語」西元肇訳 高城書房より


兵六たちが吉野原の狐退治の相談をする話

江戸も半ばの頃、九州の南の果ての国に、大石兵六はじめ吉野市助、大久保彦山坊、、曲渕杢郎次など、悪ガキ仲間がいた。

手下を集め花見やうさぎ狩りで走り回ったり、勉学にも励んでいたそうだ。

ある8月の頃遊び仲間が例のごとく集まっていた時、吉野市助が、「近頃吉野原(よしのばい)に狐の化け物が出て人をだますそうだ。化け物が出るのは世の中が乱れている証拠。ひとつ我々で退治してやろうではないか」
すると、お調子者の兵六「自分は大石内蔵助の子孫、集まって仲間を作ることは禁止されているので、一人で狐を退治してくれよう!」

兵六は皆におだてられ、家に帰ると親にも告げず、握り飯を作って一人で狐退治に出かけることになった。
ところが狐たちもさるもの。
早くもこの話を聞きつけ、牟礼が岡の白狐を総大将に、相談を始めた。

城ヶ谷(じょうがだん)の狐が「いくさというのは相手のすきを突き疲れたところに付け込むのがこつだ。兵六というのは少しばかりの学問を鼻にかけ、わずかな武力を見せびらかせ自慢して振る舞う馬鹿者だ。血の気を残らず吸い取って、勇気が砕けた頃合いを見極め、若い美しい狐が心岳寺に誘い込み、その頭をそって坊主にしてやろう」

狐たちが苙の元で謀を相談する話

兵六、磔者坂で茨城童子に出会う話
兵六は一度家を出たら、ただでは帰らないと決心して歩いていった。

太鼓橋(実方橋)を渡って、吉野原の狐どもが守る城の正面に出ると白馬・赤馬・月毛の馬が峰にずらりと並んで声高く鳴いている。

この様子を見ると、だまされているとは思わず、兵六は奮い立ち攻め込んでいった。

磔者坂(はたもんざか)のあたりまでくると急にあたりが暗くなり、煙がもくもくと出てくるとともに化け物が飛び出してきた。
「俺は都で名をあげた茨木童子の幽霊だ。おまえなぞ指先で取り殺し一口だ」
兵六は、命からがら逃げ出した。
兵六は汗びっしょりで帯迫(おっさこ)あたりまで逃げてきた。

道ばたの石地蔵に「どうか私をお守りください」と祈っていると、
重富の方から見上げるような大山伏(おおやんぶし)がお経を唱えながらやって来た。鼻が高く口はワニのように耳のそばまで裂け、目は一つしかない。

「わしは重富一眼坊と言う山伏だ。近頃作物のできが悪くお粥ばかりで腹ぺこだ。ふんふん人臭いぞ、わしの大好物だ。食べてやろう」

びっくりした兵六「お地蔵様、どうかお助けを」必死にお祈りすると、なぜか一眼坊「おまえはなぜそんなに震えている?」急に優しくなった。
「さてはおまえも化け物か」兵六が我に返って斬りつけると石地蔵に火花が散っただけだった。

兵六、帯迫で山伏の一眼坊に出会う話



兵六、葛掛原で吉野茶屋女の抜け首に苦しめられる話

帯迫で石地蔵の手を切り落とした兵六は、自信満々。
沓掛原のあたりまでくると松の根に腰掛け

  踏みまよふ吉野の奥のいかならん
      おのが心の暗きやみ路に

歌を詠んでいると藪の陰からひょっこりと、ところてんのように二人の女が出てきた。
「あれまあ、兵六さん、昨年4月吉野牧場であなたをお見かけしてからあなたに一目惚れ、お会いしとうございました」と迫ってくる。
兵六は一瞬ためらったものの「いや断る」
逃げようとすると、女の抜け首が二つ追いかけてきた。
兵六は苦しみもがいて逃げ回った。
兵六が茶屋女の抜け首からようやく逃げてきたのは苙の元(おろのもと)のあたり。ほっとため息をついていると近くの持留山から急に三つ目の化け物が出てきた。
「我こそは三つ目の旧猿坊だ。化け物世界で偉くなって、蔵には金銀財宝が溜まり放題。どうじゃ兵六、わしの弟子にならんか」
言うが早いか兵六をつかんで引きつける。兵六は逃げ出そうと思うがどうにもならない。

「ああ、石の神様、木の神様、今まで兵六は悪さをたくさんしてきましたがお詫びをしますので、どうかお助けを」
泣き叫びながら祈るばかり。

兵六
苙の元で三つ目の旧猿坊に泣き叫ぶ話

兵六、菖蒲谷を過ぎたところで
       闇間小坊主に取り囲まれる話

やっとの事で三つ目の旧猿坊から逃れ兵六は夜道を歩いていた。
菖蒲台(しょっだい)を過ぎると目・鼻・口もはっきりしない赤裸の小坊主が一人ついてきた。
兵六の後を影法師のようについてくる。

兵六が
「やいやい、なんの用があって、俺についてくるんだ」
怒鳴りつけると
「我こそは、鞍馬天狗の落とし子の鞍馬の小坊主というものさ。勝負だ」
兵六が「何をこしゃくな」と斬りかかると、小坊主は尻をまくって紫色の肛門を出すとぷーんと臭いガスを放った。
それを合図に黒い小坊主、赤い小坊主・・あちこちからどっと出てきて兵六をとりかこんで、襲いかかっていた。
兵六ははっと気づいてお経を一心に唱えた。
すると小坊主たちはグニャグニャになってしまった。

正気になった兵六が周りを見ると踏みつぶされた松茸が散らばっていたという。
光明真言のお経のおかげで助かった兵六七曲がりのあたりまでやっとたどりついた。
今度は金竹山の茂みからすいかに目鼻を付けたような化け物が出てきた。

「わしは、鵞豹軒の弟の円勧坊の長男ぬっぺっ坊というものだ。大石内蔵助の子孫というおまえさんに是非手柄話を伺いたい」
などと言いながら、飛びかかってきた。

兵六は、気を静めて考えた。
「きっとこれも自分の心の迷いから現れた化け物に違いない」
刀を真一文字に構え斬りつけると、化け物は消えてしまった。

後からわかったことだが、兵六が斬りつけたのは藁こづみであった。

兵六、関屋谷の七曲がりで
     ぬっぺっ坊に立ち塞がれる話


兵六、関屋谷の奥深い山の中で
       蝦蟇の牛わく丸に出会う話


秋の気配の奥深い山の中。生臭い風が吹いてきたかと思うと空中から火の雨が降り出した。
兵六が気味悪く思い松の木の陰に隠れていると、どっしりと出てきた怪物がある。

「我は蝦蟇冠者の弟の牛わく丸というものじゃ。侍のくせに木下に隠れるとは卑怯なやつじゃ」

兵六は「もうこれまでか」と泣き出してしまった。
怪物は「コン、コン」
と兵六を飲み込もうとした・
それでもなんとか逃げ出した兵六。
もうこれはだめだ・・鹿児島に帰ろうと関屋谷(せっきゃんたい)まで逃げてきた。

兵六が、谷川にかかる岩木橋を渡ろうとすると橋の下から「赤がに」が兵六の足を挟みつけてきた。
「我は百人一種の六番目に出てくる‘’山辺の赤がにだ」

  このやっこ行くも帰るもとらまえて
     引くも引かぬも足からの関

兵六はこれを聞き「な安打、蝉丸の歌の替え歌か」と

  カササギの渡せる橋に住むかにの
    あかきを見れば身ぞひえにける

赤がには、兵六の歌に感心して、足を離した。
和歌の素養は必要なものだ!!
兵六、関屋谷の岩木橋で
  足を「赤がに」に挟まれ歌合戦をする話
兵六、関屋谷の棒松で山姥に追いかけられる話
方向のわからなくなってしまった兵六、ふらふらと歩いていくと、がらがら声がする。

「これ、お二才様(青年)こんな夜更けにどこへ行かれます?私のところで粟のお粥でもいかがですか」

醜い大女が立っている。
その時大石家の氏神が現れ
「兵六よ、粟の粥がどろどろいう前にはよ逃げよ。山姥じゃぞ」

兵六があわてて逃げながら南無妙法蓮華強を唱えると、追いかけてきた山姥は、狐の正体を現しよろよろと四つ足を引きずりながら逃げていった。
一晩中化け物に苦しめられた兵六が、よろよろと、吉野山を下ってくると麓のすすき原で茅毛の大狐を見つけた。
「昨晩中苦しめられたのはおまえのせいか」
兵六が太刀で突こうとすると、
「やあ兵六、はやまるな」
走ってきたのは、父親の兵部左右衛門。
「これ、兵六、おまえは親にも内緒で、二才仲間と賭をしたな。
おまえは本当に馬鹿者だ。狐は、島津家にもゆかりが深い。
狐を殺せば殿様への不忠、親には不幸となる」
涙ながらに教えいさめた。
兵六も父親の話に従って押さえていた膝をゆるめて狐を逃がした。
「クワン、クワン」
狐は一山のウンコを残し逃げていった。
ところが、父親もいつの間にか背中のはげた古狐になって逃げて行ったのだ。

兵六、吉野山の麓のすすき原で
    父親の兵部左衛門にたぶらかされる話


兵六、吉野山の小松原でお菊を縛る話


せっかく捕まえた狐をだまされて取り逃がしてしまったので、兵六は残念無念。意気込んで追いかける。

狐は逃げ切れないと、小松原に逃げ込むと美しい若い女性に化けて、兵六を待ち受ける。

さすがの兵六もすっかりぼ〜っとなってしまい、恋歌など詠むが、よく考えてみると、こんな夜中に若い女が供も連れずにいるはずはない。

いきなり一人の女を押し倒し、腕をねじ上げた。
「私どもは道に迷って、やっと帰れるかと思ったら悪い人に捕まってしまった。もうわたしは死にそうよ。桔梗、あなたは親たちに伝えてください。」
「あれ、お菊さん私はこれから庄屋役所に行って助けを呼んできます。侍の娘、死ぬときは一緒ですよ」

兵六、吉野山の小松原で吉野村の庄屋に捕らえられ、心岳寺の和尚に助けられる話


兵六に縛られたお菊が神仏に祈っていると庄屋の牧野駒左右衛門が手下を連れて駆けつけた。兵六は狐退治の説明をするが、庄屋は聞き入れず今度は兵六が縛り上げられてしまった。

そこに通りかかったのが、島津歳久を弔っている心岳寺の和尚、話を聞いて、兵六を預かろうという話になる。

しかし、それにしてもこの和尚も庄屋も話がまるで狐同士の会話のようなところがうさんくさい。

何はともあれ、縄を解いてもらった兵六は、すべて狐の仕業とは夢にも思わず和尚の後について心岳寺へとはいる。
よく見ると心岳寺は、何かへんてこ。
弥勒菩薩の代わりに大きなカボチャがあったり閻魔大王の代わりは赤から芋。
十三仏も里芋3株なのだが、兵六の目には皆光り輝いて見えたらしい。

和尚は小僧に命じて兵六を風呂に入れるといって、実は肥溜めに入れたのだ。ところが兵六、二時間も長湯を使いすっかり気持ちよくなってあがってくると、今度は雌牛の甘酒や駄馬の団子を腹一杯食べさせられた後、なにやらへんてこな理論で、坊さんになることを勧められる。

和尚を信じ切っている兵六は小坊主どもにすっかり坊主にされてしまった。
挙げ句の果ては、みんなで大笑い。名前も兵雲というふざけた名前をもらったのに、和尚に感謝する兵六である。

ところが皆の笑い声でふと我に返った兵六が気づくとそこは吉野の原の荒れ野原。

兵六、心岳寺で肥溜め風呂に入浴し
           ついに坊主にされる話



兵六、寺山で石地蔵に化けた狐を討ち取る話


またしても狐にだまされたことに気づいた兵六は、今度こそ・・とものすごい勢いで狐たちの行方を捜した。

・・・と、すると見慣れない仏像が、ある。
石碑の字を見るとどうもうさんくさい。
そこで花を手向けるふりをして斬りつけ、やっとの事で、二匹の狐を捕まえることに成功した。
兵六は狐二匹を担い棒にくくりつけ鹿児島に帰ることにした。

それにしても、のど元過ぎれば熱さを忘れる愚かな兵六。

  明日もまた狐狩りして帰らめや
    おなじ尻尾を束ね緒にして

意気揚々と帰る兵六であるが、友達は、兵六の青入道を見て、あざ笑う。

兵六、めでたく吉野原の狐を退治して帰る話


それにも動じないで兵六は、一夜の武勇伝を語って皆にご馳走をさせたとさ。

作者は何を言いたかったのか・・・??
向こう見ずなだけでは、役に立たない。和歌やお経や、信念を持つことが必要だ・・と言いたいのか。

それにしても終わりよければすべてよしなのか、この後、兵六侍の意地も立ち、狐は人里に近寄らないようになり三年続いた飢饉も終わって皆安心して暮らせるようになったということだ。